佐武流山周辺 障子峰(1714.0m) 2016年5月5日  カウント:画像読み出し不能

所要時間 4:51 林道入口−−5:09 吊橋 5:12−−5:54 2連トンネル−−6:15 トンネルを迂回 6:22−−7:09 ゴザノ沢−−7:17 トンネル−−7:27 渋沢ダム−−7:28 避難小屋(休憩) 7:52−−8:53 1410m肩−−9:58 障子峰(休憩) 10:35−−11:06 1410m肩−−11:36 避難小屋(休憩) 12:02−−12:09 トンネル−−12:18 ゴザノ沢−−12:50 熊に遭遇−−13:01 トンネルを迂回 13:08−−13:29 2連トンネル−−14:02 吊橋 14:05−−14:31 林道入口

場所長野県下水内郡栄村
年月日2016年5月5日 日帰り
天候晴後曇後晴
山行種類籔山
交通手段マイカー
駐車場林道入口付近に5,6台分の駐車場あり
登山道の有無切明温泉〜渋沢ダムまでは遊歩道あり、渋沢ダム〜障子峰は無し
籔の有無渋沢ダム〜障子峰間は藪漕ぎ。5割程度はきつい石楠花藪。山頂に近付くと藪は薄まる
危険個所の有無最大の危険個所は中津川の吊橋。冬季は横板が外され転落の危険大。各沢の橋も取り外されており融雪で増水する時期は渡渉困難が予想される。渋沢ダム〜障子峰間は急斜面や急な尾根で滑落注意
山頂の展望樹林で展望悪い
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コメント切明温泉から往復。今年は雪が劇的に少なく、大型連休後半に入ったのに雪は全く無く藪漕ぎして山頂に至る。中津川沿いの水平歩道は年中無休で開通しているかと思ったら冬季は橋が外されていた。特に中津川を渡る吊橋は横板が無く3本の鉄骨を足場にして位置が悪く弛みのあるワイヤーを支えに渡るしかない。落ちると5,6m墜落なので軽い怪我では済まない。開通後に利用したい。また、水平歩道は雪が残った時期はかなり危険と思われる。尾根が急で石楠花地獄帯はおそらく残雪期も雪が落ちていると思われ、登るなら無雪期と割り切った方がいいと思われる。残雪で楽をしたいのなら佐武流山から往復しか無いと思う


全体図
渋沢ダム〜障子峰間


林道入口前の駐車余地。5,6台可 林道入口
渓流釣りの禁漁区案内 一部崩れはあるが良好な林道が続く
右に下るのが吊橋への道。林道はこの先で終点 横板が外された吊橋。ワイヤーの位置が悪く渡るのは怖い
対岸の登山道は良好。雪なし 登りを終えて水平区間に突入
布岩山。全く雪が無い 最初の沢。ほとんど雪が無い
最初の沢の対岸。残雪はここともう1か所のみ 素掘りの2連トンネルの1個目
内部は資材置場になっていた 2連トンネルの2個目
振り返ると鳥甲山。全く雪なし ダム放水のサイレン
通行止めのトンネル。左の道から尾根を越える迂回路あり 迂回路を登る
トンネルの反対側も閉鎖 橋が外された沢だが水量少なく問題なし
1073m標高点近くの沢も橋が外されていたが問題なし 1170m標高点北側の沢。ここも渡渉は容易
カモシカ登場。最初はこちらに走ってきて焦った 1170m標高点南側の沢
ゴザノ沢。水量多く橋が無いと苦しい 橋の上流2,30mで川幅狭く渡渉可能個所発見
1か所だけでかい落石あり 1246m標高点尾根を貫くトンネル
老朽化で補強された個所。天井が低く屈んで歩く 元は素掘り。高さ2m程度
渋沢ダム ダム堰堤ではなく立派な吊橋で対岸へ
渋沢ダム湖 対岸には車道があってびっくり。ヘリ空輸の重機だろう
渋沢避難小屋。ここ数年で建て替えられたようだ 寝るスペースは3,4人か
こちらは東電の資材小屋らしい ヘリで運ばれた大量の荷物
渋沢にかかる吊橋 避難小屋から障子峰までの距離は1.22kmと出た
避難小屋の裏は濡れた深い笹藪 少し進むと笹が薄くなる
急な小尾根に取り付く 今年初めて見たイワカガミ
急な小尾根を登り続ける クライミング並みの傾斜をよじ登る
標高1250mで石楠花登場。しばし石楠花地獄 こんな根曲がり灌木も
1360m付近。最初の石楠花帯終了 1370m付近。笹地帯は歩きやすい
1410m肩。この低い照葉樹も石楠花並みに強固 烏帽子岳もほぼ雪なし
1420m付近。歩きやすい笹が中心 1450m付近から再び石楠花。北を巻くのがいい
1510m付近。尾根上は石楠花の森 1570m付近で石楠花地獄から解放される
1640m付近。低い笹で快適 1660m付近。笹も消える
1690m付近。そろそろ1700m肩 1700m肩。明瞭な肩地形
三角点を探して南へ 佐武流山。ほとんど雪が見えない
障子峰山頂 苔むした三角点
DJF氏のテープが巻かれた木は倒れていた 3年前の文字はかろうじて読める程度
佐武流山へ続く尾根 三壁山、大高山付近。北斜面だが全く雪なし
下山開始。赤テープを残すが次の訪問者はいるのか? 1660m付近
1550m付近の石楠花藪 1520m付近で鳥避け?を発見。藪では不気味な存在
1410m肩を帰りは直進 南へ下る。しばらくは灌木と笹藪
1310mで石楠花登場。往路に負けずかなりの強敵 1260m付近。石楠花と格闘中
1190mで石楠花終了と同時に岩っぽい急斜面を下る 急斜面の下は傾斜が緩んで笹藪
やっぱり避難小屋裏が笹が一番濃い場所 避難小屋到着
帰りに出会った熊さん 崖を貫く水平道
月夜立岩は目立つ存在 帰りの吊橋も緊張して通過
林道入口に到着 駐車場着。他の車は消えていた


 栄村で登り残しの山の中でやっかいなのは障子峰のみとなった。例のごとくDJF氏が登っているが、ネット検索では他の記事は発見できなかったので、特に登山者が少ない山と言えよう。DJF氏は6月初旬に群馬側から往復している。この山は沢を渡らずに尾根に取り付けるのは渋沢ダム以外にはなくDJF氏もここから往復しているが、途中で石楠花地獄だったようだ。当然ながら残雪期が有利なのであるが、今年は雪が少なく雪解けは例年より約1ヶ月早い。でも少しは残雪が利用できるだろうと考えて出かけることにした。

 私の場合は長野市から出発なので秋山郷経由とする。これは帰りがけに栄村のおまけの山も登る計画を立てていたこともある。ネットで調べると既に切明温泉まで車で入れるようになっており、ネットによる調査で中津川にかかる吊橋は昨年の降雪で破損したが昨年6月に修理完了との情報も得た。今年は小雪だったので吊橋の破損はないだろう。あとは水平歩道の残雪状況が心配だ。急斜面をトラバースするような道が延々と続いていて、もし残雪急斜面のトラバースがあると最大の難所となろう。12本爪アイゼンにピッケルを持っていくことにした。それに対して肝心の障子峰の登りの残雪はかなり心細い。西向き尾根なので雪解けが早く、おまけに傾斜も急なのでさらに雪解けが早い。北向き斜面に残っているかどうか程度かなぁ。

 登山口は切明温泉を通過する県道のカーブ。しっかりとゲートがかかった林道入口で、近くに駐車場があり既に2台の車が止まっていた。おそらく釣りだろう。仮眠して明るくなってから出発した。今回は渋沢ダムまでの距離が長く往復に時間がかかる。

 林道の路面状況は良好で頻繁に関係車が入っているようだ。小規模な落石があったりするが手でどかせる程度のもの。水平移動よりも下り気味の区間が長く、帰りに登りになるのはいやらしい。

 やがて右手に下る明瞭な道が分岐、直進すればすぐに林道終点広場のようだ。もちろん右へ下る。中津川が近づくと吊橋が現れたが目が点になってしまった。横板は外されて足場は縦に伸びた細い鉄骨3本のみ。橋の高さは河原から5,6m程度だろうか。1本橋ではないので渡れないことはないが、この高さでこの足場は恐怖を感じないわけがない。両側に手すり代わりのワイヤーがしっかり設置されていればまだいいのだが、ワイヤーは膝くらいの低い位置にあり、しかも弛んでいて掴みにくいし体を固定しにくい。今考えてみればこのワイヤーは針金で仮固定されているだけなので高さを調整できたはずだが、現場ではそこまで頭が回らなかった。ワイヤーの間隔=橋の幅は両手を広げてギリギリ届くか届かないかであり、両手でワイヤーを掴みながら進む=3点支持は困難な状況だ。

 少しの間進むかどうか考えたが、曲がりなりにもワイヤーがあるので最悪でも墜落は免れるだろうとの判断に至り、渡る決心をする。落ちたら死亡の残雪急斜面トラバース並みの緊張を強いられ、足元をよ〜く確認しながらゆっくりと進んでいく。鉄骨の設置位置は幅が狭まるところは歩きやすいが広い個所はバランスがとりにくく、特に神経を使う。

 橋の1/3くらまで進むと吊橋を支えるメインワイヤーが手の届く位置まで下がってきて、これはテンションがかかっているので弛みが無く体のバランスをとることが格段に容易になった。反対側の橋に近づくと再び弛んだワイヤーを手がかりにする必要がありバランスに気を使う。最後は中央部が少し曲がった鉄骨を越えて対岸へ到着。帰りにまたこれを渡るのを考えると不安になるが、帰りだったら最悪は川の浅瀬をジャバジャバ渡ってもいいだろうと割り切れば気が楽になった。

 対岸に渡っても道は非常に良好で広く完璧な刈り払い。心配していた残雪は皆無で、この先も残雪は心配ないようだ。ジグザグに高度を上げ終わると長い水平道が始まる。黒部の関電歩道を歩いたことはないが、おそらくそれに近い道だと思う。急斜面というかほとんど崖の中腹に道が作られていて、万が一足を踏み外せばまず助からないだろう。水面まで50m以上の高さがある。ただし道幅は非常に広く軽トラなら走れそうなほど。だからよほどのことがない限りは転落の心配は無い。一番心配だった残雪も、崖地帯では全く見られなかった。ただしここに下手に雪が残るとかなり危険だろう。

 谷筋の残雪も気になっていた場所だが、最初の沢はほとんど雪は消えてしまい、沢の上流を見てもほとんど雪が無い。ここは東向きの沢なので一番最後まで雪が残りやすいはずだが、これではこの後の沢もほとんど雪は無いと思われた。これはいいことだが、逆に考えれば障子峰の西向き斜面はまず雪が残っている可能性はないということで、ほぼ藪漕ぎが確定だ。対岸に見える月夜立岩や大岩山にも全く雪が無い。

 水平道を進んでいくと地形図に記載が無い素掘りの短いトンネルが登場。高さは2mくらいなので普通に立ったまま歩けるので助かる。これは手で掘ったのだろうか? 内部には看板や資材が置かれ、冬場は物置代わりにも使われているようで、豪雪地帯では良く見る利用方法だ。素掘りのトンネルは短い間隔で2つあった。

 さらに進んでまたトンネルが登場。これは地形図に表記されている1128m峰のある尾根を貫くトンネルだ。しかし入口には施錠された鉄格子があって通行止めで、トンネル内壁の劣化で危険だから迂回せよとのお達し。トンネル左側に尾根に登る明瞭な道があるのでそれに従う。ネットで調べてトンネル通行止めがあることは分かっていたが、このトンネルだったとは知らなかった。尾根に登ると言っても標高差50mなので大きな負担ではなく、トンネルの反対側に出るまでの所用時間は7分程度だった。

 この後はいくつか沢を横断するが、沢にかかる橋がことごとく取り外されていた。これは雪崩による破損防止のためだろう。橋の構造は簡単で2本のL字型鋼材をフレームとしてその間に木の板を渡して路面としている。橋の長さは5m程度。どの沢も雪は無く流れが完全に出ているが水量はそれほど多くなく、橋が無くても比較的簡単に渡渉可能だった。これも雪解けが早く増水の時期が終わっているからかもしれない。

 さらに進んで1170m標高点のある尾根が張り出した場所で、道の向こう側からカモシカがこちらめがけて走ってきて焦った。おそらく私の熊鈴の音に気付いて逃げ出したのだろうが、その方向が逆で私から逃げる方向ではなく接近する方向だった。30mくらい離れた場所で立ち止まり、こちらをじっと見つめる姿はいかにもカモシカらしい行動だ。写真を何枚か撮影しカモシカが動き出すまでこちらはじっとしていたら、数分後に斜面を登っていった。私も動き出して斜面を見上げると20mくらいの距離でカモシカがこちらをじっと見ていた。写真は撮らせてもらったのでそのまま私の方が遠ざかった。

 1170m標高点のある尾根南側の地形図で水線が書かれた沢には固定式の橋がかかっていた。全部取り外し可能な構造の橋ばかりだと思っていたがそうではなかった。地形図を見るとこの沢が一番水量が多そうな表現だったのであとは問題ないだろうと考えていたが、次のゴザノ沢は少々問題だった。橋が外されているのは想定内だったがこれまで渡った沢の中で一番水量が多く、橋付近と橋の下流では簡単に渡れる場所を見出せなかった。渡れそうな場所もあったが対岸が崖で登山道に這い上がれそうにない。仕方なく藪っぽい上流側に移動、橋から2,30m上流で川幅が狭まって石伝いに渡れる場所を発見。対岸は湿って滑りやすい急な岩場だったがどうにかクリアして水平道に出ることができた。これが雪解けシーズン真っ盛りだったら渡れるような水量かどうか・・・

 これで危険個所はなくなり、後は淡々と横移動。1246m標高点真東の地形図に記載が無いトンネルはヘッドライトが必要な長さで、トンネル前半は素掘り壁面が劣化して崩れやすくなったのを鉄骨で補強したようで、腰を屈めて歩く必要があるくらいの天井(鉄骨)の低さで、ザックに刺さったピッケルが時々鉄骨に引っかかった。途中で素掘りの岩肌に変わると高さ2mくらいになって普通に立って歩ける状態になり楽になる。最後はコンクリート巻立ての壁面に変身、私の身長でギリギリ頭がぶつからないくらいなので天井の高さは175cmくらいだと思う。

 トンネルを通過して少し歩くと待望の渋沢ダム。この橋も横板が無いのではないかと心配したが、路面は金属製の網目であり取り外せない構造で冬場でも年中無休だったので助かった。ダムは堰堤上を人が歩けるような構造にはなっていないので、吊橋が無ければ対岸に渡れない。

 山のど真ん中だが対岸には車道があった。おそらくヘリで運んだ重機のものだろう。建物は3つあり、ダムに一番近く一番大きいのはダムの制御機器が入っているのだろう。東側の少し大きな建物は東電の資材小屋らしく入口は施錠されていた。茶色の小さな建物は渋沢避難小屋で、DJF氏がやってきた時はかなりボロかったようだが今は立て替えられて数年程度でまだ新しい。中はあまり広くなく3,4人が横になるといっぱいになりそうだが、作りは頑丈そうで雨風は充分に避けられる。基礎は古い避難小屋のものを流用したようで、建物本体と基礎の間に隙間があるが許容範囲だろう。

 長い前置きが終わってここからが本番。周囲を見ても残雪皆無で、ここまでの状況から考えても障子峰までの間で雪があるとは思えず藪漕ぎ確定なので荷物はできるだけ減らす。アイゼン、ピッケルは当然ながら不要で、今日は気温上昇が予想され防寒着も最低に抑える。飯、水も一部しか持っていかないこととした。デポする荷物は避難小屋の中に置いておく。小屋の裏の笹は昨晩の雨でまだ濡れているので上下のゴアに足元はロングスパッツで固めた。

 避難小屋の裏から笹藪へ突入。いきなり濃いがそれは平らな区間だけで、緩やかに登りが始まると笹が切れて歩きやすい斜面に変わる。DJF氏が登った斜面もこの付近か。両側は微小尾根であり登っているのは広く浅い谷地形だ。藪が薄いところを選んで進んでいくが徐々に傾斜がきつくなり、どうせなら尾根に乗った方が安全だろうと判断し、左側の尾根の方が藪が薄そうなのでそちらへ取り付く。小屋の裏の笹は濡れていたのにここの藪は乾燥している。傾斜がきつくなり運動密度が上がって暑くなってきたのでゴアを脱いだ。

 尾根上も藪は薄いがかなりの傾斜で立ち上がっていて、潅木を掴んで登っていく。微小尾根でこの傾斜では下りはルート判断が難しそうだ。今年初めてのイワカガミが目を和ませる。1210m付近では部分的にクライミングのようなロクでもない斜度が登場するが、低い笹や矮小灌木等の植生があるのでそれを掴んで強引に登ったが、下りは無理かなぁと考える。

 強烈な傾斜が終わり1250m付近からは石楠花のお出ましだ。DJF情報より出現が早いが、後で記録を読んでみたところ彼はもっと上まで谷間を登ったようだ。結果的にはそれが正解で、少なくとも谷の北側の尾根は石楠花藪が酷い。尾根が細く迂回不能で強固な石楠花を腕で掻き分けながら登っていく。傾斜がきついところもあり岩場が出てこないかハラハラしながらだが、幸いにして左右は崖状の個所はあっても尾根上に岩はなかった。しかし藪ゴミはあるようで喉に絡んで咳が頻繁に出た。

 石楠花は標高1360m付近まで続き、尾根が広がると背の高いブナと笹に植生が切り替わって格段に歩きやすくなる。標高1410mで右手から太い尾根が合流。今までの石楠花藪漕ぎの苦労を考えると帰りは往路を戻らずに1410mから尾根を直進した方が良さそうだが、念のためにここに目印を残す。植生は先ほどと同じで基本は笹と潅木で、たまに強固な照葉樹が混じる。こいつは尾根を塞ぐように地面付近から広く枝分かれし横に寝て高密度なので石楠花並みにやっかいだが、あるのは1本だけとかで群生はなくすぐに歩きやすい笹に戻る。

 しかしこれが続かないのは先人の記録で承知している。標高1460m付近から尾根上は石楠花が支配するようになる。これまた強固だが幸いにして左側(北側)の斜面はそこそこの傾斜で植生は笹のため迂回可能な場所もあり、できるだけ左側の笹地帯をトラバースして登っていく。傾斜がきつくてトラバースできない個所は尾根に上がって石楠花と格闘だ。笹がある場所は明るいブナ林だが石楠花のある場所は常緑樹のネズコやシラビソで薄暗い。今は陽が当たらず涼しい方が助かるが、そういう場所は石楠花が存在する目印である。石楠花帯は標高1570m付近まで続き、それを抜けると笹が中心の植生に変わって劇的に歩きやすくなる。この辺りだと根曲がり竹が出てきそうなものだが、生えているのは肩くらいの高さの笹なので視界も得られて掻き分けやすく、予想外に歩きやすいと言えよう。標高が上がった影響かもうブナはなくシラビソ樹林に変わっていた。

 標高1600mを越えると傾斜がきつくなるが笹の背丈は低くなり膝丈程度でさらに歩きやすくなるが、尾根がバラけはじめて下りが不安なので目印を残す。立木はシラビソに変わった。標高1650m付近では笹も消えて極めて歩きやすいが、なぜそこが無毛地帯なのか不明だ。

 再び笹がお出ましだが大した障害ではなく不明瞭な尾根を登り続け、最後はそれほど強力ではない根曲がり竹+笹に変わって1700m肩に乗り上げた。ここの肩地形は明瞭だが、登ってきた尾根は不明瞭で下山時は要注意だ。何も考えずに歩くと北に引き込まれてしまう。肩の北側の僅かな窪みに申し訳程度に残雪があった。小屋からここまで残雪を見たのはここだけで大型連休期間中とは思えない状況だった。樹林の隙間から見える佐武流山も白さは僅かで、白砂山から往復だと既に藪漕ぎだろう。逆に秋山郷から夏道の方が歩きやすそうだ。

 肩と言ってもこの先の尾根の高さは同じ程度であり三角点がありそうな雰囲気だが、DJF氏の記録ではここより数10m先だと言う。根曲がり竹を分けてシラビソ中心の樹林帯を先に進み、僅かに根曲がり竹が消えて開けた場所に到着。高さは肩と変わらず山頂っぽくないが黄色いテープが巻かれた木が倒れていた。避難小屋からここまでで唯一の人工物であり、DJF氏が3年前に残した物に違いない。ひっくり返してみると掠れた文字で山頂名等の署名があった。マジックだと3年でかなり消えてしまうようだ。

 となるとこの近くに三角点があるはず。DJF氏の記録によると三角点の四方に埋められた石が目印になるとのことで石を探すと簡単に見つかった。そしてその周辺をよ〜く見ると、緑に苔生して周囲に同化した三角点を発見! よかったぁ。これで安心して休憩できる。天気は良好でやや風が出てきたが樹林の中なので影響はほとんどない。日当たりのいい場所で休憩。今の時期はまだ虫が出ていないので快適だ。

 さて帰りであるが、やはりあの石楠花藪と急傾斜はイヤなので、1410mで右に曲がらず直進してみることにした。等高線の間隔はこの尾根の方が緩いし下るには良さそうだ。唯一気になるのは1250mにある等高線表記。崖マークのようにも見えて無気味な存在だ。ここを通過できるかが一番のネックだが、ダメなら巻けるだろうと考えた。

 下りは尾根を外しやすいため石楠花地獄は登りよりトラバースは自然と少なくなり苦労させられる。石楠花を避けて笹斜面のトラバース中、標高1520m付近で場違いなカラフルな物体を発見。この世界では異様な雰囲気を発散している。何かと思って接近すると、どうやら農作業で使われる鳥除けらしい。目玉が大きなかわいらしい豚の絵が書かれたビニール製の風船のようなもので、おそらく風で飛ばされたのだろう。さすがに目印として誰かが持ち込んだ物ではないだろう。まだピカピカの新品であった。

 石楠花帯を突破し、歩きやすい笹原を下って1410m分岐点到着。往路は右手の分かりにくい尾根から上がってきたが、石楠花地獄回避のため下りはこのまま尾根を直進だ。正解かどうかは行ってみなければ分からない。ここはなだらかな地形なので目印を残さないと下りでは右の尾根の存在は分からないだろう。

 最初はこれまで同様の歩きやすい笹と潅木の尾根が続くが、期待に反して標高1310m付近から石楠花のお出ましだった。いいかげん疲れた腕で石楠花を押し分け、これまた疲れた足を高く上げて石楠花を乗り越えたりと笹と比べると大幅にスピードが落ち体力を削り取られる。この尾根も痩せていて左右に迂回が難しい地形だ。どこまでこの状態が続くのか・・・。

 標高1290mで尾根が分岐。明瞭な尾根は南へと伸びているが偽物で、最後には渋沢に消えてしまう。西に伸びる主尾根の出だしは細く急傾斜でぱっと見た感じでは尾根とは思えない地形だ。本当にこれが主尾根か慎重に見極めるため太い尾根を少し進んだが真南に下っているので確実にNG、尾根に見えなくても西に下るしかない。最初は尾根っぽくなくただの斜面だが、少し下ると尾根らしくなってきて方位磁石も西を指して正しい尾根に乗っていることが確認できた。やれやれだ。

 標高1250mの崖があるかもしれない場所は特に何も無く気付かないうちに通過してしまったが、標高1190m付近で地形図に出ていないが半分崖のような岩っぽい急斜面が登場した。急斜面は高さ2,3mで立木が無いが、デコボコはそこそこあるので下れないわけではない。ただし滑りやすいので注意。私は途中で足を滑らせてずり落ちたが、途中の出っ張りに足がかかって止まってくれた。まあ、そのまま落ちても怪我をするような高さではないし、急斜面の下は笹の緩斜面で安全地帯だ。結局、石楠花藪はここまで続いていて、帰りの尾根が往路より楽だったかと言えば微妙だ。ただし傾斜は復路の尾根の方がマシだったので、安全性は復路に使った尾根の方が高いと思う。

 笹の緩斜面に下ればもう石楠花は無く基本的には避難小屋まで笹原が続くが、ルートを選べば笹を避けて歩きやすい場所もある。たぶん往路で登った場所だろう。避難小屋に到着して中に入るがデポした荷物はそのまま残っていた。飯を食って少し休憩して出発。出発時は風が強く、この状態が続くと最後の難関、吊橋の通過難易度がさらに高くなりそうで憂鬱になる。また、いつの間にか上空の雲が増え、まさか雨が落ちてこないだろうなと心配になる。雨に濡れた鉄骨は登山靴では滑りやすく、さらに難易度が上がる。まだ現場到着まで2時間以上かかるだろうから状況は変化するだろう。ラジオの天気予報では新潟はこれからさらに天気が良くなるとのことだったので、少なくとも雨は無いだろう。

 帰り道は往路で様子が分かっているので気楽だ。渡渉ポイントも分かっているので短時間で通過。往路と違ったのは熊に出会ったこと。場所は佐武流川合流点の僅かに下流側。鈴の音に気付いて私とは反対方向に橋って逃げるのを目撃した。大きさはまだ小さく、生後1,2年ではなかろうか。写真撮影前に逃げられたと思ったら、登山道を外れて斜面を少し登った潅木の向こう側で立ち止まってこちらをじっと見ている。まるでカモシカのようだ。距離は2,30mくらいで、往路で出会ったカモシカが立ち止まった距離と同じくらい。これが野生動物にとっての安全距離らしい。熊が立ち止まってくれるのは初めてで、じっくりと写真撮影させてもらう。用事が済んだら私の方から立ち去る。私が歩く方向は熊から離れる方向なので、熊も安心して私の行方を見ているだろう。これで今年の熊遭遇は2回目だ。

 登山道の地面が緩い場所では新しい靴跡を発見。ブロックパターンからするとイボイボ付きの長靴らしい。たぶん釣り人だろう。ということは私以外にあの吊橋を渡る人がいるというわけか。水平道が先まで見渡せる場所で目を凝らしたが先人の姿はなかった。1時間以上の時間差があるのだろう。

 その後はイベントはなく、吊橋の手前で身支度を整える。万が一橋から落ちた場合を考えて、着られるものはゴア以外は着込み、頭は毛糸の帽子を被り、ザックの中身を調整。もし背中から落ちてもアイゼンやピッケルで怪我をしないようにだ。着込むと暑いが仕方ない。

 橋の両端では手すり代わりのワイヤーが弛んでいて一番バランスをとりにくいのは分かっているので、弛みがないメインヤイワーに手が届く位置までは慎重に進み、メインワイヤーに手がかかってからは安心して進む。再び弛んだワイヤーを掴む区間で進行速度を落として一歩一歩慎重に足を運んで無事に対岸へ到着した。やっと難関クリアだ。

 涼しい格好に着替えて最後の林道歩き。登りが待っているのでのんびりと歩く。時間的にも急ぐ理由はない。途中の小沢で腕や顔を洗い、濡れタオルで全身の汗をぬぐって藪のゴミを落としてさっぱりした。もう汗をかく時期になったなぁ。

 林道ゲート到着。駐車場には私の車のみ。ちょうど木陰に入っていたので車の中は灼熱地獄になっておらず助かった。着替えを済ませ軽く飯を食い、笹のアレルギーで痒みが出た場所には塗り薬を塗っておく。花粉シーズンは終わったはずだが目のかゆみを感じたのでアレルギー用点眼薬を使用。今シーズン最後かな。


 まとめ。障子峰に残雪期に登るなら群馬側しかあり得ない。秋山郷側から入ると吊橋を筆頭として各沢の外れた橋など障害物が多い。今年は雪解けが早くて無雪期登山となったので本当の残雪期の危険は分からなかったが、水平道に雪があったらかなり危険だろう。渋沢ダムから山頂までは急傾斜が多く、石楠花のある区間はおそらく残雪期でも石楠花が出てしまっているだろう。左右に巻けるような雪が残っているかがポイントとなるが、左右は急斜面で巻くのは危険な場面が多く、残念ながら障子峰は残雪期に適した山とは言えないと思う。無雪期の涼しい時期に藪漕ぎするのがベストな登り方だろう。藪漕ぎがどうしてもイヤだという人は残雪期に佐武流山から往復しかない。これなら藪を回避できるだろうか日帰り不可能で常識的には2泊必要となろう。今後も登る人がほぼ皆無の山のままであろう。

 

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